AIが「不快に感じる街」ランキングを発表したら? アルゴリズムが嫌う“人間のまちづくり”

はじめに:「不快」を定義できるのは、もはや人間だけじゃない

「不快な街」と聞くと、あなたは何を思い浮かべるだろうか?
騒音?悪臭?治安?交通渋滞? それとも、無機質で退屈な景観?

実は今、AIが都市空間に「不快さ」を感じ始めている。
もちろんAIに感情はない。だが、それでも「この街は最適化されていない」「この構造は効率が悪い」「人間の生産性が下がる要因が多すぎる」と判断するようになってきている。

今回のテーマは、人間ではなく AIが選ぶ“住みたくない街”。
もし、都市を評価するのが人間ではなくAIだったとしたら?
AIは、私たちが「住みやすい」と信じてきた街に、どんな点数をつけるのか?

想像するだけで、少しワクワクしないだろうか。

人間の感覚とAIの判断は一致しない

人間は感情や文化、ノスタルジーで街を評価する。
一方でAIは、数字とデータ、論理と構造、目的と効率で街を評価する。

例えば、以下のような街が人間には好まれる。

  • レトロな商店街が残る昭和の街並み
  • 公園が多く自然豊かで、車通りが少ない住宅街
  • カフェやギャラリーが点在する“ごちゃっと”した街

だがAIにとって、これらの街は「不快」と判断されるかもしれない。

AIはこう言うだろう。

  • レトロな商店街は耐震性が低く、非効率な動線が多い
  • 自然豊かな住宅街は公共交通機関のアクセスが悪く、CO2排出が増える
  • ごちゃっとした街は人流と物流の分析が難しく、犯罪検知のアルゴリズムが働きにくい

つまり、人間の“好き”とAIの“快適”は、まったく別の基準に立っているのだ。

「不快な街」をAIが評価するための指標とは?

AIが都市を評価する場合、明確な評価軸(パラメーター)が存在する。以下はその一例だ。

  • 1. 移動効率スコア
    信号の数、道路の幅、混雑率、公共交通の接続性
    無駄な曲がり角や階段、段差の有無
  • 2. 視覚ノイズ評価
    広告看板の密度、配色のチグハグさ、景観整備状況
    色彩心理学に基づいた「不快色」の割合
  • 3. 音環境スコア
    騒音レベルの分布と周期性
    周囲の建物の反響構造
  • 4. 行動トラッキング効率
    人の動きが予測可能かどうか
    カメラ映像での顔認識率(混雑や死角の多さが障害になる)
  • 5. データ非整合性率
    標識の誤表記、施設名の表記ゆれ、ナビゲーションとのズレ

こういったデータを収集・分析したうえで、AIは「この街は非効率で、人間の活動を妨げる要因が多い」と“判断”する。

AIが選んだ「不快に感じる街」仮想ランキング(※フィクション)

以下はあくまで仮想ランキング。実在の街ではなく、AI視点で「典型的なNG構造」を持つ街の特徴を列挙する。

第1位:過剰装飾都市「カラー・ジャングル市」

  • 街全体がビビッドな色彩で統一されておらず、信号や看板が背景に埋もれる
  • 交通標識と広告が同系色で認識ミス率37%
  • 色彩心理学的に「警戒」や「焦燥」を引き起こす配色多数

→ AI評価:「この街では視覚的疲労が蓄積しやすく、認知負荷が高まる」

第2位:構造崩壊都市「迷路シティ」

  • 縄文時代からの道が残っており、GPSとの誤差が頻発
  • 表札なし、私道多数、突き当たりの多い道路構造

→ AI評価:「ナビゲーション精度が著しく低下し、配送・救急活動の非効率を生む」

第3位:静寂過剰都市「サイレントゾーン区」

  • 遮音材が多用され、音響データによる異常検知が困難
  • 犯罪検知アルゴリズムにおける「音のない動き」が増加

→ AI評価:「静かすぎてセキュリティ検出率が低下。都市としての透明性に欠ける」

第4位:イベント無軌道都市「フェスティバル無限街」

  • 毎週のようにイベント開催、歩行者の流れがパターン化されない
  • 一時的な交通規制がAIにとって“異常値”として検出され続ける

→ AI評価:「定常状態を把握できず、都市シミュレーションが不可能に近い」

第5位:感情過密都市「メンタル・アーバン」

  • SNS投稿の感情分析で「怒り・不安」系の言語頻度が突出
  • 街灯不足、薄暗い路地、過去の事件履歴がデータ上で蓄積

→ AI評価:「住民の心理状態がAIにも“危険信号”として映る。非推奨エリア」

AIにとっての“理想の街”とは?

AIが理想とする街は、極めてシンプルだ。

  • 全ての道が直線的で、交差点が90度
  • 建物がユニファイドなデザイン、色調はグレーやニュートラルカラー
  • 人の流れがアルゴリズムで予測可能
  • センサーデータの死角がなく、全ての動きがログ化される

言い換えればそれは、人間にとって「つまらない」と感じる街でもある。

人間の「快」は、しばしば非合理性や意外性、そして感情の揺らぎの中にある。
だがAIにとってそれらは、“ノイズ”であり“異常値”でしかない。

AIと共に都市を作るということ

私たちは、AIに街の最適化を任せたいと思っている。
それは、渋滞をなくし、犯罪を防ぎ、環境に配慮した未来都市を創るためだ。

しかし――

その過程で、「人間らしさ」や「感情的な愛着」が削ぎ落とされていくとしたら?

果たしてそれは、私たちの望んだ未来なのか。
AIが“不快”だと感じる街が、実は人間にとって“心地よい”街だったという逆説が、今ここに立ち上がろうとしている。

終わりに:「不快さ」とは誰のものか?

「不快な街」というランキングは、もはや人間だけの感覚ではない。
AIは人間の行動パターン、反応、事故、消費、感情までをもデータ化し、
「この街に住むと幸福度が下がる」と判断を下す。

だが、その判断が正しいかどうかを決めるのは、最後まで“人間”であるべきだろう。

私たちが選ぶべきは、「AIに好かれる街」なのか。
それとも、「人間が好きになれる街」なのか。

そして、その間をつなぐデザインは、まだ誰にも設計されていない。